2015年04月15日

お口の健康相談室-環境ホルモン-

お口の健康相談室-環境ホルモン-

この物質は熱湯を入れたポリカーボネイト製ほ乳瓶からも溶出したエストロゲン(女性ホルモン)様物質だ。歯の治療によって口の中で発生するというショッキングな内容なだけに、米国内では大きな波紋を広げた。歯の溝を埋める充てん材は、一般にコンポジット・レジンとかシーラントと呼ばれる。これは液体状のモノマーや石英の粉などを材料に合成する。歯科の現場では、歯科医がそれらの薬剤を混ぜ合わせて硬化させる。空気に触れて自然に固まるものと、光を当てるとすぐに固まるものがある。このレジン系充てん材から、ビスフェノールAが溶出するのは、ビスフェノールAを化学構造にもっているビス・GMAなどをモノマーとして用いているためだスペインのグラナダ大学や米国のタフト大学が18人の学生を対象に行った研究によると、レジン系充てん材の処置をした1時間後、だ液(30ml)から、90-931マイクログラム(1マイクログラムは100万分の1グラム)のビスフェノールAを検出した。学者たちは「特に子供たちにとっては、このレジン系充てん材からの溶出は、外部から摂取する新たな内分泌かく乱物質を増やすことになる。溶出したホルモン様物質が体内でどう代謝されるかは今後の研究課題だ」と同誌で警告しているこれに対し、米国歯科医師会は「カリフォルニア大学が7種類の市販シーラントで行った試験管での溶出試験では、ビスフェノールAは検出されなかった。昔の充てん材は硬化性が悪く、少量の化学物質が溶出したかもしれないが、最近のレジン系充てん材は豊富な安全性のデータに裏づけられている。体に悪影響がある科学的な根拠は何もない」と会報などを通じて反論している日本はどうか。日本歯科医師会の問い合わせに対し、今年(1997年)10月2日、歯科材料メーカーで組織した「日本歯科材料工業協同組合」(東京)は、「ビスフェノールAは、ビス・GMAなどの合成の際の未反応物質として、あるいは分解産物として微量含まれる可能性はある。しかし、充てん材は硬化させて使うものであり、(米国の7市販品の試験結果の通り)溶出していないので問題ない」と文書で回答さらに続けて「ビスフェノールAを細胞培養やラットに多量に投与すれば、精子の減少や乳がんの増殖促進などの作用はありえると考えられるが、溶出していないので、ほとんど人体への影響はない(毎日新聞1997.12.28「続 しのびよる人体汚染(8)」より)

歯科材料にはビスフェノールAが含まれていますか。▲TOP

環境ホルモンとして疑われているビスフェノールAですが、現在、日本で市販されているコンポジットレジンやシーラントにはビスフェノールAは成分として用いられていません。コンポジットレジンやシーラントの成分モノマーとして、bis-GMAやTEGDMAが用いられていますが、bis-GMAは強アルカリ性、酸性あるいは高温化で分解されなければ、ビスフェノールAに分解されることはありませんビスフェノールAとTEGDMAは、測定の際にピークが類似の波長を示すことが知られています。こうしたことから、カリフォルニア大のHamidやブリティッシュコロンビア大のRuseらは、「Oleaらの論文ではTEGDMAを測定していないので、TEGDMAをビスフェノールAと混同したのではないか」と述べています歯科界は、どのように反応したのでしょうか。▲TOP

このEnviron Health Perspect誌の論文は大きな議論を引き起こし、アメリカの歯科医師会や医師会はただちに反論しました。反論の要旨は、カリフォルニア大学Hamidらなどが行った追試験の結果ではビスフェノールAは検出されなかったというものです。1997年のADAの報告では、ADA承認の12銘柄の歯科用シーラントのうち、1製品からのみ痕跡程度のビスフェノールAが検出されたという報告があるだけで、他にビスフェノールAが検出されたという報告は今のところないようです。ADAがビスフェノールAを検出した1製品についても、再処方して、検出されなくなったことが確認されています歯科材料メーカーで組織された日本歯科材料工業協同組合は、日本歯科医師会の問い合わせに対し、前述の如く、文書で回答していますある県の歯科医師会「患者さんの皆様方へ

歯科用充填材の安全性に関して」▲TOP

各地の歯科医師会も個別に対応を検討しています。1998年にある県の歯科医師会は、「患者さんの皆様方へ

歯科用充填材の安全性に関して」という資料を作成し、安全性を強調しています。以下、全文です「昨今、環境ホルモン(内分泌かく乱物質-外因性内分泌撹乱化学物質)に関する報道が多くなされておりますが、歯科用の充填剤(むし歯につめる白い材料-合成樹脂)を詰めた人の唾液からビスフェノールAという物質が検出され、人体に悪い影響をもたらすのではないかと言われております。日本歯科医学会ではこの件につき「現在市販されているコンポジットレジン及び歯科用シーラント材には通常の分析方法ではごく一部の材料を除いてビスフェノールAの存在は確認されず、さらにたとえビスフェノールAが認められたとしても血液中に移行していないということから健康への障害は考えられない」という米国歯科医師会の見解を支持しています。詳細に関しては、かかりつけの歯科医師にお尋ねください。○○県歯科医師会」

母乳からもダイオキシンが検出されるそうですが、母乳は安全ですか。▲TOP

日本の女性の母乳からダイオキシンが検出されるということをマスコミが報道し、母乳に対する不安が広がっているようです。1994~1995年国立環境研究所の調査によれば、母乳から脂肪1g当り21~37pgのダイオキシンが検出されています。今のところ乳幼児の1日の摂取許容量は定められておらず、早急な対策が望まれます。母乳の汚染が気になる人は母乳の検査を受けるとよいでしょう。汚染がひどい場合、3か月程度で人工栄養に切り替えるという方法もあります。しかし、母乳は乳児にとってバランスのとれた栄養であり、乳児の免疫力にも関係しています。また、授乳によって深められる母と子のスキンシップといったメリットもあります。環境中のダイオキシン除去を進めるのも必要ですが、母親もこれ以上体内に汚染物質を取り込まないようにする食生活上の自衛策が必要です歯科治療を受けるうえで、環境ホルモンの問題をどう考えたらよいですか。▲TOP

現在までのところ、大部分の報告からは歯科材料は安全であると考えられます。しかし、ビスフェノールAがたとえ痕跡程度であっても検出されたというADAの報告がある以上、今後の早急な研究が必要と思われます。これまでに血液中からビスフェノールAが検出されたという報告はありませんが、唾液中から検出されるかどうかについてはまだ結論が出ていません環境ホルモンは、世代間を越えた影響あるいは世代交代そのものの危機を示唆している点が従来の食品添加物や医薬品の急性・慢性の毒性とは異なる点です。さらにきわめて微量で作用することも問題です環境ホルモンが人体に及ぼす影響についてはまだ研究が始まったばかりです。合成化学物質は約10万種類も出回っているうえ、年々約1,000種が新たに加わっています。有害なのはビスフェノールAだけなのか、他の材料は安全なのかという疑問も永久に答えがでないでしょう。すべての合成化学物質は何らかの影響があるという前提で、受益者である患者さんのインフォームドチョイスを重視することが必要と思われます。一方で、歯を削らなくて済めば歯に詰める材料の心配をしなくて済みます。ですから、予防をさらに普及させることが必要です。



Posted by bookentd at 12:48│コメントをする・見る(0)
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